第3章 構想と制約
1 『制約する』という概念と手段
(1) 最善手の定義と探索条件
最善手の定義は、場面の確定状態によって2つの状態にわかれます。
- 読みきれない状態
- 読みきれる確定。
の2つに大きく分かれます。
@ 読みきれない状態… 構想の模索状態(中間状態)….
この時点の最善手は、相手の構想を阻止を優先しながら、読みきれる状態にすることになります。このため、相手の動きにあわせた『修正』がたえず必要になります。このため、修正できない着手は、最善手にはなりません。
特性、ミスによる損失が、得られる利益より大きい状態であり、
構想によって、自己達成しようとするとミスが起る状態。
このため、構想においては
- 相手の地の可能性を減らす。
- 打った石は取られないようにする。
この2つの相反する行為を工夫することになります。
相手の石を
- 生ききられない領域に制限する。
- 生ききられない領域に確定させる
このことによって、自分が有利な地になる「確保の争い」を行っている。
A 読みきれる状態 自分から構想実現が可能な状態
場面が進行し、確定領域が多くなると、未確定な領域のおける確定条件が限定されてくると、自己の構想目的の追求だけで、最善手が得られるようになります。
つまり、勝ち切ることができる状態になると、最善手の特質が大きく変化します。
(2) 部分的な戦いでの効率は、制約がある。
隅や辺での生死の形には、パターンがあり形としての条件があるため、実戦でよくできる形の数は限定的になり、そこでは戦いの手順としての制約が存在しています。
2 読みの基本条件
勝つためのゲームとして囲碁における着手の特性を考えると、その特性は
- どこにでも自由に打てるゲームではなく、
- 場面において数多くの制約された条件から、
- 最善手を見出し、
- 相手の手に対応しながら、徐々に修正し完成させる
ゲームであるといえます。
(1) 石は取れないという制約がある(法則)
3子以上の石は、振り変わり以外は取られないように打つのが基本になり、「相手の石を取るという構想や戦略は成立しない」ことになります。このため、直接石を取るのではなく、石を取る代償を求めて攻める(生きの制約)ことで地の増減が生まれることになります。
このため「石を取る」「殺す」という戦略や戦術は、相手のミスでない限り、実戦では不可能な構想になります。このため、「石を取る」という読みではなく「相手が手を抜いた場合に取る」という、相手のミスを想定した読みがなされ、これが「制約する」という手の原点であり、構想での着手効率において重要な意味を持つことになります。
(2)「制約する」という概念
石が取られると、「確定地が減る。」「確定地にならない」など不利な状況になるため、無条件に取られないことが読みになります。つまり手を抜くと石が取れる場合が想定されています。取られる条件としては
- 生きることができない。(眼が2つ作れない)
- 攻めあいに負ける。 (相手より先に、手数がゼロになる)
互いにダメを詰める争いで、相手より先に手数をゼロにすると石が取れる。
(3) 相手の構想を阻止する。
相手構想の阻止を優先するという条件は、これも勝つための制約条件になります。「制約する」と「着手ミスを咎める」という動作には、多くの共通性があり類似しています。
例えば、
- 眼形を奪う…… 欠け目にする。中手にする。
- 重くする。……. 逃げさせる。生なければならない状態にする。
など、石が取れる可能性、必然性を高めることで、咎める手が打てるようになります。
(4) 2手連続して打つとどうなるのか
構想での攻守の基本動作の多くは、「2手以上連続して攻めるとどうなる」かという条件によって立てられています。
【攻める動作】
@ 生き難くさせる。 A 地の可能性をへらす。
【守る動作】
B 攻められないように生きる。 C 地の可能性を保持する。
(5)未確定な状態での選択
「石は取れない、殺せない」などの未確定な状況での着手選択では、「先手後手の判断」など、相手が手を抜くとどうなるかを前提にした考察と検証の読みが基本になっています。そしてこの場合には、『2手連続して打った場合の評価』が前提になります。
(6)確定までの手数での評価
正しい着手評価の条件は、石が絶対に取られないという確定した状態が必要になります。このため、多くの着手は、「生きられる」という確率の状態であるため、正しい評価はできません。このため、確定状態まで何手必要かが問題となります。中盤以降の戦いになると、2手連続して打てると確定状態になることが多く、「2手連続して打てた場合の評価」が基準になります。
第4章 着手ミス
1 修正できない構想ミスによる失敗
高段者になると、「構想ミス」によって勝敗が決まるとになります。構想ミスが生まれる原因は、
- 2つ以上の戦いが同時に起こり、
- 最善手としての修正や微調整が困難になる
ことから起こります。つまり、2つの弱い石を一手で同時に守ることが出来ない状態になるからです。
構想ミスが生まれると、「見合い条件」によって「絡み攻め」「もたれ攻め」などの手が生じ「大石が取られる」「確定地であったものがなくなる」など、勝負に重大な影響を与える結果になります。
2 相対的な着手評価
(1)石が取れる場合での注意点
相手の石を取る場合の評価において注意すべきは、取ると100%有利であるかというと必ずしもそうではありません。なぜなら「攻め取り」になることで利き筋が増えることがあり、「攻め取り」にならないという条件を考慮する必要があります。
(2)取る手と囲う手の2者選択になる。
着手の選択は、「相手の石を取る効率」と「地を囲う効率」との効率比較によって行われますが、通常は「石を取る」という構想は成立しないため、「手抜きで石を取られる損失」と「受けることで相手に与える地の損失」の比較で着手の選択が行われています。
(3) 攻める石数が大きいほど地の増加も大きい
石数が大きい石が攻められるほど、その周囲に利き筋が多くなることから、攻めの効果による確定地の増加も、攻める大石に比例して大きくなります。つまり攻め取りと同じ効果があります。また「連続して打たれると効率」が一気に上がることになります。
3 読みきりの評価
(1)読み切れないために生じるミス
着手の決定では、『読みきりが出来る場合』と『読みきりが出来ない場合』とがあり、多くは『読み切りができない状態』での選択になります。この『読みきりができない状態』では、必ず「ミスの危険」があり、これを減らす読みの工夫が重要になります。
第5章 失敗学
(1)囲碁は失敗学のゲームとして、最適なゲームである。
失敗学において、重要な条件とは、
- 負けた原因を、法則に照らし自分一人で、自分なりに見つけることができる。
- 自分にあった上達の勉強方法を、自分で研究模索し選択することができる。
- 失敗する危険性がもっとも多いゲームである。
- 失敗してもその損失の回避と低減を行う可能性がある。
ということです。囲碁は、これらの条件を満たしている特異なゲームなのです。
(2)失敗原因の自己解明(自己探求)が可能な理由
自己検証を可能とする条件と理由では、
- ゲームル−ルによって効率条件が生まれている。
- 「KITの対局意識」と「TKKの目的達成法則」
の2つによって「効率差」や「棋力差」が生まれるからです。
また、失敗を改善する自己探求のおいて、
- 失敗原因を、体系化された法則と照合することで自己解明できる。
- 自己解明において、棋力という理解の制限があっても、その能力(棋力)に見合った最適な可解決方法を見つけることが可能になる。
があります。
(3)読みと基本法則
失敗を減らす方法には、
- 必然手順の検証能力
- 法則として論理知識
の2つを高める必要があります。
必然手順の検証能力の育成は、詰碁を解くことで養うことができます。
基本法則としての理論では、
- 公理1 一手の打つ勝ち価値は、手順の進行によって減少する。
- 公理2 効率とは、相手の構想の制約することで、自分の可能性を保持することである。
- 公理3 石を取る効率は、地を囲う効率より大きい。
- 公理4 打たれた石は、無条件に取られてはいけない。
- 公理5 地の増減は、打たれた石の危険回避によって生まれる。
- 公理6 逆転の可能性は、弱い石の存在と絡み攻めの可能性から生まれる。
など理解する必要があります。