囲碁の本質(概論)

囲碁の本質

第1章 囲碁ってどんなゲーム

◆ 囲碁ゲームを定義する

囲碁は、地を囲うゲームではなく、石を取るゲームでもありません。囲碁ゲームを定義するなら、石を取る技術を、攻める動作に変換し活用することで、相手より相対的に大きい地を獲得するゲームといえます。この変換能力を構想力と呼ぶことにします

◆ 囲碁のルールと棋力

囲碁がどのようなゲームであるかを知るには、囲碁のルールをよく理解することから始まります。理論としての囲碁ルールの優先順序として 

  1. どこにでも自由に打てる、
  2. 交互に打つ

ことがまず決まり、

  1. 石が取られるルール
  2. 石が取れないルール

によって、勝負を決めるルールとして

  1. 地の大きさ(相手が置けない領域の広さ)を競う

ことが日本ルールとして決められています。
日本ルールと中国ルールとの違いは、@からCまでは同じなのですが中国ルールでは最後のDが、「自分の石が置ける領域」になっています。

ルールを学ぶ上で、中国ルールが日本ルールよりわかり易いのは、相手が置けない領域では、置けない認識(死活、攻め合い)の知識が必要ですが、自分が置けるというルールでは、生きた石に接する空間で済むため、勝敗計算が簡単になります。

どちらにしても、石が取られる、石が取られないことで形勢差が生まれることになり、この石を取る能力、取られない能力が棋力になっているのです。図1-1の天元戦第三局の終局図ですが、勝敗結果は、図1-2として、計算され、石の上に印のある石は、死石になります。中国ルールの計算では、形勢領域の大きさになるため、単純な面積の比較で勝敗結果が導けます。

終局図
図1-1 終局図
図1-1
勝敗領域図
図1-2 勝敗領域図
図1-2
勢力図1
図1-3 勢力図1
図1-3
勢力図2
図1-4 勢力図2
図1-4

◆ 勢力地と形勢判断の概念

図1-3は手順が4手進行した時の勢力図です。白の勢力域は◇で表され、白地になりやすい場所になります。同様に黒の勢力域◆も、黒地になりやすい場所になります。勢力図1と勢力図2の違いは、勢力として範囲を3としたものが勢力図1であり、範囲を10と広くしたのが勢力図2になります。

◆ 形勢判断と争点

勢力図2では勢力の境界線が現れます。

この1-3図で、何も表記されない場所は、未確定領域であり、今後の戦いでどちらの地になるかが決まる場所になります。

石の損得がなければ、形勢の差は多くの場合互角となります。また、たった4手であっても、図1-4からわかるように、天元付近での未確定の領域が今後の戦いに大きく影響することを明示しています。つまり、辺や隅での形勢差ではなく、「隠れた天元」に戦いの争点があることがわかります。

天元戦 22手
図1-5 天元戦 22手
図1-5
天元戦 22手 黒137 白160
図1-7 天元戦 22手 黒137 白160
図1-7

◆ 序盤から中盤への進行

天元戦の第三局では、22手目までは、互いに相手の地を減らす進行ではなく、地を囲う進行が展開しています。手順が23手目で黒は、下辺に打ち込んで白の勢力地を大きく減らす手を選択します。

どうして、右下辺に打ち込んだのかというと、このまま囲い合う展開になると、黒地137目 白地160目となっているため、黒が勝てない状況です。もうひとつの理由は、下辺に打ち込んだ黒い石は、取られることがないことが明らかです。
この2つのことから構想において優先されるのは、一つは、自分の地を囲う手ではなく、相手の地を減らす手であること。またもう一つは、単純に大きな地を囲う構想は成立せず、大きな地になる場合には、必ず相手からの阻止の手が打たれることです。

実戦では、打ち込みの結果が図1-5から1-8となり、形勢図が1-9で黒167 白102と大きく変化し、白の勢力地が59目減って、黒が30増えました。ただこれらの地の増減は、確定したものではなく、あくまで、地になる可能性が増えたことを意味しています。

天元戦 27手
図1-8 天元戦 27手
図1-8
天元戦 27手 黒167 白102
図1-9 天元戦 27手 黒167 白102
図1-9
天元戦 22手 黒80 白84
図1-9 天元戦 22手 黒80 白84
図1-9
天元戦 22手 黒98 白79
図1-10 天元戦 22手 黒98 白79
図1-10

このように中盤までの戦いは、構想の選択で、地の可能性が大きく増減し影響することになります。そしてこの地の可能性の増減幅は、手順の進行とともに小さくなります。

◆ 確定地の増減は

確定地とは勢力地より、より変化しない地をいいます。図1-5と図1-8の形勢図は、勢力範囲が5の場合、図1-9と図1-10になります。

勢力範囲を狭くすることで、勢力地ではなく、確定地の増減としてみることができます。

図1-9の形勢図でも、白地は黒地より大きいため、黒の構想として、やはり打ち込みが必要な時期であることがわかります。そして、打ち込んだ結果からも、この打ち込みの判断は適正だったことがわかります。

確定地の変化は、勢力地の変化より小さく、その変動幅も徐々に小さくなります。 

◆ 黒には、弱い石が増えた

手順が図1-5から図1-8へ進行し、地の形勢は黒が有利になったのですが、下辺の白は、よりしっかりした生き形になり、攻められる危険性や石が取られる危険性は減りました。反対に黒は、捨てることができない3つの黒石が新たに生まれています。つまり、打ち込みの結果、地合いの形勢は、黒有利になったのですが、中盤以降の戦いの条件は黒が不利になり、特に天元付近での中央の戦いは、この三子が完全に生きるまで、構想における大きな負担となっています。この負担が、中盤以降の戦いの争点になり、黒はこの三子の石が取られると負けが確定するため、絶対に取られないように打つことになります。

また、図1-8の次の手番は白であるため地合いの形勢は白が不利であっても、全体の形勢としては互角とみることができるのです。また概算として、序盤での1手の価値は確定地としても5目以上あり、黒には1眼もないため、およそ10目程度の負担があるとみなすことができます。このため、理論からみた形勢評価では、白がやや打ちやすい状況であるといえます。

天元戦 32手
図1-11 天元戦 32手
図1-11
天元戦 46手
図1-12 天元戦 46手
図1-12
天元戦 146手
図1-12 天元戦 146手
図1-12

◆ 中盤の戦い

地を囲いあう展開では、勝てないと判断した白は、戦いによって勝機を見出す構想をたてます。それが32手目の「ぼうし」の手なります。つまり攻めながら、中央を厚くし、その厚みを活用した上辺での地の囲いの勝負に踏み切りました。その第一弾白32の手であり、さらに強手の46手を打ってきました。下辺の黒は、単に生きるだけなら、簡単に生きられるのですが、生きた後の攻めの狙いのない生きの手は、効率がわるく勝てないため、黒も白の弱点を反撃する手順が進行することになりました。

このように、生きるという前提ではあるのですが、攻めながら守る。次の狙いをも追求しながら戦う。そして互いに生き生きの結果になり、その戦いの結果、どちらに大きな確定地が生まれるのかが、囲碁の読みであり構想になるのです。このため、石を取るという動作が、地になるという価値変化を生み出しているのですが、この戦いでは、146手目の白の手によって、中央の黒5子が取られ、白の中央は生き返り、結果、下辺の黒の大石が死に、黒の投了にとなり、白が勝ちました。敗因は、死なない前提の黒石が死んだことが原因となっています。このことが、大石が取られるのは、構想ミスであり、構想ミスをした方が負けるということになります。

また、黒には、左辺に大きな地ができたのですが、大石が取られると負けるゲームであることを証明しています。