丈和の囲碁訓

夫れ 碁に三法あり。石立、分れ、堅めあり。此三つ宜き時は其業大功なり。三つの内一を得ば凡ならず。凡そ三十手或は五十手百手にして勝負を知るを修業の第一とす。

修業に正邪二つあり。正道に志せば上達し、邪道に志せば下達す。邪道とは欲心強きをいう。欲心は見えぬ手を見出さんとして調子長く成って起きる手筋をいう。知らざれば考えても中々見えぬものなり。故に打つほどに下達す。正道は欲心深からざるをいう。其術早打ちにして手筋を心掛くるにあり。早きときは欲心出る隙なし。欲心出でざれば手筋好く次第に上達す。是初心第一の心意なり。

また地取り、石取り、敵地へ深入し石を逃ぐる皆悪し。夫れ地取りは隙なり、石取りは無理なり、深入りは欲心なり、石を逃ぐるは臆病なり。故に地と石とを取らず、深入りせば石を捨て打つべし。地を取らざるは堅固、石を取らざるは素直、深入りせざるは無欲なり。石を捨つるは尖きなり。とかく我石を備え堅むるを第一とし、次に敵の透間を打つべし。

かくの如くする時は手筋素直にして上達速かなり、初心の業正道に入り易く、上達し易からんことを示すのみ。

本因坊丈和
盤上では力の権化と称される。盤外でも権謀術数を尽して名人御所についた。(天明7年〜弘化4年)